心臓リハビリテーションのまにまに

心臓リハビリテーションを10年以上している心リハ太郎が日々考えたり思ったりしているエビデンスのあることないことをつらつらと書いています。

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行動変容のステージモデル(関心期 問題編)

前回は無関心期の患者さんの特徴と関わり方についての話でした。

今回は関心期の患者さんについてです。

 

関心期とは

関心期は、ある行動をした方がいいとは思っていても実際の行動に移せないという状態です。

例えば、ウォーキングをしたほうがいいのは分かってるけど時間がなくてできないなあ、みたいなケースですね。

関心期では、ある行動をする理由としない理由(できない理由)が綱引きをして、しない理由が勝っています。

そのため、実際の行動が起きていないのです。

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実際のところ、この「行動しない理由」を覆すのはエネルギーのいる場合が多いです。何故なら人間の心には基本的に変化を嫌う性質があるからです。

分かりやすくなるように例えで説明してみます。

行動を変えることを荷物を押すことに例えてみると

慣性の法則というのがありますよね。外からの力が無ければ、止まっているものは止まり続け、動いているものは動き続けるという物理学の法則です。

物が動くには外からの力が必要です。

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人の心も慣性の法則と同様に同じ状態を保とうとしますので、何か行動に変化を起こそうと思った場合は、必ず外からの力がいります。

この時、荷物が重ければ重いほど、押して動かすのに強い力が必要です。

 

また、荷物を押す時には、地面と荷物の間に摩擦力がかかります。重い荷物ほど、そして地面がザラついているほど、より荷物と地面との摩擦力は大きくなり、押すのに大きな力が必要になります。

 

止まった状態の荷物は、荷物の重さと摩擦力に打ち勝つ力をかけて初めて動き出すのです。

行動目標の高さは荷物の重さ

現在の行動を別の行動に変える、または何か新しいことを始めるというのは、それが例え望ましい結果を生むことが分かっていても、なかなかできることではありません。

禁煙、ダイエット、運動など、皆さんも自分に当てはめれば何か思い当たるのではないでしょうか。

 

このとき、行動のハードルが高ければ高いほど、行動に移しにくくなります。

例えば全然身体を動かしていない人が運動としてウォーキングを始める場合を考えてみましょう。

 

週に1回10分歩くのと、毎日30分歩くのでは、毎日30分歩くほうがハードルが高いですよね。

これは毎日30分歩くほうが行動目標が高い、つまり心の荷物が重いということです。

 

重い荷物はそれなりに強い力で押さないと動きません。

ですので、その人にとって目標が高く感じる場合は、荷物の重さに負けてしまい最初の一歩が踏み出せなくなるのです。

 

最初から理想的な行動目標を達成することを目指すと大体失敗しますが、その理由は荷物が重くて動かすことができない、ということなのです。

ただ、行動目標を下げすぎると、目的とする効果が得られなくなりますので、むやみに荷物を軽くすればよいというわけではありません。

行動しない理由、行動できない理由は摩擦力

次に「行動しない理由」について考えてみましょう。

 

人がある行動をしない(できない)理由には

  • 〜がない(時間、お金、道具、人の協力など)
  • 行動するのが精神的、肉体的にしんどい
  • 反対する人がいる
  • しないほうがメリットがある

などがあります。

 

このような「行動しない理由」「行動できない理由」とは人間の心や行動における摩擦力、つまり心理的抵抗感です。

 

摩擦力を決める二つの要素は

  1. 荷物の重さ(行動目標の高さ)
  2. 地面のザラつき(心理的抵抗感)

です。

 

摩擦力は荷物が重いほど大きくなります。

行動目標が高いほど、つまり心理的荷物が重いほど心理的な摩擦力が大きくなりますので、実際の行動に移すことが難しくなります。

 

また、その人自身の考えや精神状態、周囲の環境などが行動を邪魔するような場合は、地面の滑らかさが少ない、ザラザラのアスファルトの上のような状態です。

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ザラザラのアスファルトの上で荷物を押そうとしても、摩擦力が強いせいで荷物が動かないか、動き出してもすぐ止まってしまいますよね。

 

ですので、はじめに挙げた

  • 〜がない(時間、お金、道具、人の協力など)
  • 行動するのが精神的、肉体的にしんどい
  • 反対する人がいる
  • しないほうがメリットがある

場合は、その人の心理的負担が大きい、つまり地面がザラザラで摩擦力が高いため、そもそも行動に移せないか、行動し始めてもすぐ辞めてしまう、ということが起きるのです。

 

例えば、先ほど挙げた運動の例で言えば、毎日30分歩くという高い行動目標であっても、もともとウォーキングなどをしていた人の場合は、心理的負担感は少ない、つまり地面は滑らかで摩擦力は弱い事が多いでしょう。

逆に徒歩3分の距離でも車に乗って移動していたような人であれば、30分歩くことはとてつもなく心理的負担感が大きい、つまり地面はザラザラで摩擦力が強いと考えられます。

行動しない理由を直接変えたい時の注意点

この記事のはじめの方で、「しない理由」をくつがえすのはエネルギーがいる、と言いましたが、それはこのようなザラザラの地面を滑らかにするには結構大きな工事が必要だからです。

 

人の心や考え方を本心から変えて、素直な状態、つまり表面を滑らかにすることはかなり難しいです。

またその人自身の問題ではなく周りの人や環境が問題の場合は、その問題を解決するような方法がなく、地面の工事ができない場合も多いです。

 

人の心や、その人の周りの人の心・行動、周りの環境を変えるのは難しく、場合によっては心理カウンセリングや社会支援などが必要になる場合もあり、ここに気軽な気持ちで直接アプローチしようとすると、患者さんとの関係性をこじれさせる可能性があります。

 

どうしてもアプローチする必要がある場合は、自分1人で勝手に進めるのではなく、同僚や他職種に相談し、その力、を借りるほうが無難かもしれません。

 

少し長くなったので次回に続きます。